創作物

エッセイ

丸いたべもの

文芸学科で開講されている「ジャーナリズム実習II」の課題「食べ物について」。安心感を与えてくれる、あの食べ物についてつづります。

わたしの住んでいるアパートは商店街を通った先にある。最寄駅から必ず通るその商店街は盛り上がっていない。これはいい意味である。盛り上げる必要などなく、人々の暮らしの中にじんわり馴染んでいる、そんなお店が肩を並べているのだ。

 米屋、パン屋、八百屋、豆腐屋に、珈琲屋、団子屋、ケーキ屋、生活雑貨屋など、今流行りの便利な大型のショッピングセンターとは違った良さがあり、人情や面白さに溢れた街なのである。これが決め手となりここで一人暮らしする決意をした。

 引っ越したての頃に行った珈琲屋のダンナさんはお店を出るお客さんに必ず「良い一日を!」と声掛けしている。こういう場面を見るとわたしは人間という生き物で良かったなと心の底で思ったりする。ケーキ屋のおじさんはこちらが少々引くほど試食をさせてくれた。そしてそこのケーキは本当に美味しいもので、お祝いでもなんでもない日に食べるとその日はそこそこ良い日になったりする。

 今日食べたのは商店街のちょうど真ん中のところにある豆腐屋の『おからドーナツ』だ。ここのドーナツは叫ぶほど美味しい!というわけではないけど、ふと思い出したときに、定期的に、求めてしまう味で何にも変えられない唯一無二の安心感のある食べ物なのだ。ひと口食べればじんわりと油が身体に染み込んで、これがのちに体脂肪になるとしてもそれはもう本望だ、と思って食べる。食べる際に指についた油さえ愛おしく感じる。わたしはこれを『安心感ドーナツ』と勝手に呼ぶ。そして誰にも通じない。

 このドーナツの安心感の謎を知るためという理由でドーナツを三つ買った。三つで二四〇円。安い。一つは歩きながら食べた。食べながら思うことがあった。「丸いものって安心感があるのかも」ということだ。ドラえもんも、アンパンマンも丸い。角ばっている机よりも円卓の方がなんか好き。感じ方は人それぞれだけれど、私にとって丸とは安心感なのだ。

 夜、見ていたニュース番組で「明日はスーパームーンが見られる」と伝えられていた。スーパームーンとは2021年では地球に最も近い満月のことらしい。悪い日課の夜中のお菓子探し棚で見つけたのは、たまごボーロ。「これも丸だ… 」と深夜の静かなキッチンで思わず笑ってしまった。

 

 さて、明日は何食べよう?

文芸学科/野津芽生

(ジャーナリズム実習II・2021)