創作物

小説

あなたへ

 とうもろこしの神さま、お久しぶりです。お元気でしたか? 神さまは、きっとお元気ですよね。じゃないと、にんげんのこと守れませんものね。元気だったらいいな。え、私ですか? わたしはそうですね、元気ではないですよ。だってほら、いまあなたに問いかけているのよ。あなたにほんとうのわたしを見せることは、私に元気がない証拠ですから。

 あなたのことを、ずっと忘れようとしていました。二年前、あなたに手紙を書いたでしょう。ほんとうのわたしは、死にたいけれど生きたい、神さまのこともわたしのことも信じてみたい、というようなことを書きましたね。覚えていますか? あの時の私はどうかしていました。あなたに洗脳されたくてされたくて仕方なかった。静華の暴動から逃げたかった。合唱部からも、高校からも、人生からも。なんもかんもぜんぶいやだった。

 あなたさえいればそれでいいって思いたかったんです。私のこと認めてくれる誰かがいればそれでよかった。だからあなたのことを必死に調べたし、とうもろこし食べたし、黒曜石で左手の人差し指をきってあなたに血を捧げたりもした。あの後、あなたに内緒で何度か同じ儀式を試したけれど、指に傷が何本も増えただけであなたの声を聞くことはできませんでした。だからあの手紙を書いて以来、私はあなたを追い求めることはやめました。

 あなたのことを頼っても頼らなくても、私はわたしのままで。あなたはあなたですから。いまだって、ほら、私はこうして話しているけれど、あなたが聴いてくれているかどうかわからない。あの時と同じです。ずっと私が一方的に語っているだけ。ねえ、どうしてよ。

 明日は、なんの日だか知っていますか? 知らないですよね。ふふ、だって言ってないですもの。明日は、卒業式です。わたし、卒業できるんですよ。すごいでしょう。生きていたんですよ、ずっと。ママの作ってくれたお弁当捨てられても、トイレに閉じ込められても、一人で歌わされた挙句に罵られても、なにされても耐えました。私さえ黙って言うことを聞いていれば、静華は生きていけるのです。わたしのことを見て、静華は笑顔になるのです。それなら私、どんなことをされたっていいの。結局、私はあのこのことが大好きだから。キスをして、あの子の舌をわたしの喉の奥に突っ込んでほしいくらいに。

 二年生になった時からはクラス替えのおかげか、部室以外で何かされることは無くなりました。だからなんとか、あなたに話しかけなくたって私は生きていけたの。死ななかったよ。すごいでしょう。ほら、窓の外をみて。白梅が、ポップコーンみたいに咲き乱れているのよ。あなたと会話できることに、私が生きていることに、おめでとうって言ってるの。いま、私は元気になりました。ほんとうです。だってまだ、わたしは生きたいから。

執筆者

文芸学科/山根麻耶

(文芸研究上坪ゼミ・テーマ「恋心を描く」・2021)